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2010年10月

映画『バべットの晩餐会』その3

シネセゾン刊、岸田今日子訳

『バベットの晩餐会』より

バベットのメニュー、私の深読み」食文化研究家・

本間千代子さんの章から

・・・原作者のアイザック・ディーネセンの作品

は、「絵をみるときのように、からだを引いて全体を見渡すと

一切の意味が明瞭になる」という人がいる。この映画に登場

する食卓もまた、全体を包む大きな構図の中で眺めた時、「

若き日にエロスを奪われた女」としての著者の人生に思いい

たり、私には料理と銘酒の数々の持つ象徴的な意味が謎解

きのような面白さでつたわってきたのだった。

 ディーネセンはこの短編を1940年代にアメリカの読者に向

けて書いたといわれるが、当時のアメリカでここに出てくる料

理のロマンを楽しんでくれた人々は、おそらく今の日本よりも

数少なかったと思う。その意味で彼女は、自らの愛した人々

と同じように「生まれ合わせた世紀に帰属できない」女だった。

 まず、晩餐会はシェリーのアモンティヤードと海亀のスープ

ではじまる。アモンティヤードはフィノよりも香りにすぐれ、ナッ

ツのように複雑で芳醇なコクがある。スペインはアンダルシア

の南、へレスで醸造され、イギリスに運ばれる。フィノより樽熟

成の期間は長く、したがって甘くなりがちだが、ドライのアモン

ティヤードこそはもっとも貴ばれるシェリーで、東京では最近ま

で(1988年の執筆時)なかなか出合えなかった。(※現在、楽天

で最も高価な30年物は4,980円で売り切れ中)

海亀のスープについては、シェリーが英国の上流社会の酒で

あったように、もともとはアングロ・サクソンの料理だった。・・・

海亀の漁場は主に西インド諸島のあたりだったといわれる。そ

のせいかスープにはかならずシェリーかマデイラを加える。相

性がよいとされてていたのだ。

 味わいを楽しむことは神の心に背くとお互いを戒めあってい

たプロテスタントの信者たちは、このあたりから微妙に表情が

ほぐれていく。そんな雰囲気の中で供されるシャンパンのヴ―

ヴ・クリコ・ポンサルダンとフレッシュ・キャヴィア・ドゥミドフ風の

組み合わせもまた一筋縄の発想ではないと思う。

 キャヴィアは19世紀フランスでも豪華な食事に欠かせない一

皿だったが、カスピ海、黒海産のものが最上等といわれる背景

から、多くの場合、東欧、ロシア流にブリニスというそば粉のク

レープとの相性が一番とされてきた。(キャヴィアは)色の薄い粒

の大きいベルーガが最も高価でおいしいことはよく知られている

が、実はさらに高価なコチョウザメの子、ゴールデン・キャヴィア

がこの世の中には存在し、帝政ロシアの頃はすべてツァーに献

じられ、スターリン時代には彼とイランのシャーが分け合った問

い伝説があるが、現在では年に20キロもとれない。<さらに続く>

 

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『バペットの晩餐会』つづき

Photo

1989年シネセゾン発行、アイザック・ディーネセン作

・岸田今日子訳『バべットの晩餐会』の解説から・・・

1985年のアカデミー作品賞として記憶に新しい『愛

と哀しみの果て』の原作「アフリカの日々」を著わし

たデンマークの女性作家アイザック・ディーネセン(

本名カーン・ブリクセン)の短編小説がこの映画の原

作。1950年にアメリカの雑誌「レディーヌ・ホーム・ジ

ャーナル」に掲載されたものです。とてもおだやかな

空気につつまれ、ゆっくり時間が流れているようなデ

ンマーク・ユトランドの海辺の村が舞台です。実は、

原作では、ノルウェーの海辺の村が舞台でした。で

もこの優しい物語を映像にするのに、険しいフィヨル

ドに比べてよりやさしい海岸線の風景をもつユトラン

ドを選んだのは、正しい判断だったでしょう。この村

に澄む素朴で謙虚な人々と、1871年のパリ・コミュー

ンの戦塵のなか家族を失い、母国を捨ててきたフラ

ンス女性との交流や、老人たちが集まって開かれた

晩餐会の描写に、とても質のよいユーモアが満ちて

います。監督のガブリエル・アクセルは、1918年パリ

生まれのデンマーク人。・・・落ち着いた色調の映像

は、フェルメールの絵画のようであり・・・1987年度ア

カデミー外国映画賞を受賞。

中沢新一氏は書中で、

 一度だけ、生涯にたった一度だけ。

 ずっと、このままずっと、いつまでも変わることなく。

 はじめからおわりまで、この映画の中では、「一度

だけ」と「ずっと」という二つの言葉が、まるで通底音

のように聞こえてくる。この映画の人間たちは「ずっ

と」と「一度だけ」のあいだを、大きな振幅で生きてい

る。『バべットの晩餐会』は、そこにプロテスタントの

牧師さんの一家のことや、教会にやってくる熱心な

ピューリタンの村人のことが描かれているから、宗

教的な映画なのではない。「一度だけ」と「ずっと」と

いう二つの言葉のあいだで、大きく振れ動いて生き

た人間のことを描いていることによって、この映画

はヨーロッパ人の魂の底にまで届くような、深さをも

つようになっているのだ。・・・つづく

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「バベットの晩餐会」DVD始末

「バベットの晩餐会」DVDが英国より着荷

『葬式は要らない』の著者・島田裕巳氏のブログに紹介されて

いた映画「バベットの晩餐会」。下記は島田氏のブログからの

転載です。

《朝の映画祭は「バベットの晩餐会」。これは、話題になった映

画だが、見ていなかった。よくできた映画だと思うが、宗教学的

にも興味深い。貧しい村の人々はルター派のプロテスタントで、

そこに騒ぎを起こすのはフランスのカトリック教徒。ずっとつま

しい生活を送っている人々に対して、享楽的なカトリック教徒は

欲望を喚起するような方向で迫ってくる。最後、信仰よりも食べ

たものの与える快楽が勝利したとも考えられる。なにしろ信仰

では対立は溶けなかったが、とびきりの食事が和をもたらした

のだから。原作はいったいどうなっているのか興味をひかれた》

下記はまた別な人の書いているブログからの転載で、

f:id:hakuouatsushi:20091209220310j:image:left《全国TOHO系の映画館で開

催中のこの企画。

詳しくは公式サイトを参照してほしいのだけれど、文字通り午

前中に名画を上映するイベント。問答無用の大名画『ローマ

の休日』『12人の怒れる男』(必見!)などから、『追憶』、

2001年宇宙の旅』、『ゴッドファーザー』、そしてフランス映画

の『アメリカの夜』やデンマークの『バべットの晩餐会』など、

時代も製作国も広範に上映(洋画のみ)されます。

 ポイントはね、値段なんですよ。 大人1000円、そして学生

以下は500円! この「学生500円」ってのが、いーじゃないか》

そこで『バべットの晩餐会』のDVDを探しだしてピョン

太文庫の無料映画会で、と考えましたが、アマゾンに

もヤフオクにもありません。原作本さえアマゾンには

なく、市立図書館でやっとみつけました。女優で童話

や翻訳本もだしている故・岸田今日子さんの訳したも

のがあったので読んでみました。DVDの方は思った通

りUKアマゾンで(イギリスはDVDが安い!)。でも英語版

なのであら筋でも配ってからみてもらうしかないでしょ

うね。12月か1月にはやりますのでお楽しみに。

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